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注目の最新裁判例(諭旨解雇・懲戒解雇と普通解雇)

弁護士 藤田晃佑

さて、今回は令和2年2月19日に出された東京地方裁判所の判決を紹介させていただきます。従業員の勤務態度や問題行動に対する処分として、諭旨解雇・懲戒解雇を無効とし、普通解雇を有効と判断した事案です。

1. 事案の概要

精密測定機器を製造・販売する会社に勤務する従業員が業務命令を拒否したことや上司の前でカッターの刃を持ち出し自傷行為に着手しようとして警察官が臨場する騒ぎとなったこと等から、会社は、従業員を諭旨解雇・懲戒解雇し、また、後日、予備的に、上記理由に加えて複数の部署において多数のトラブルを起こしたこと等を理由に従業員を普通解雇しました。これに対し、従業員は、会社の諭旨解雇・懲戒解雇及び普通解雇は無効であると主張し、雇用契約上の地位の確認、未払賃金及び慰謝料の支払を求め、訴えを提起しました。

なお、当該従業員は、会社への入社後、顧客や他の従業員とのトラブルが相次ぎ、複数の部署の異動を経ており、社内で受け入れる異動先が見つからなかったため、自ら社外出向先等を開拓するなどをしていました。しかし、社外出向先等も見つからなかったため、再度機会を与えるという趣旨で配属された部署で上記行為に及んだものです。

2. 裁判所における判断

(1) 諭旨解雇・懲戒解雇の有効性について

裁判所は、従業員の上記行為が就業規則所定の懲戒事由としての「職務上の指示命令に従わず、職場の秩序を乱すとき」に該当することは明らかであり、また、過去にも種々の問題行動を繰り返していたことからすれば相当に重い処分が妥当するといえないではないとしながら、

  • ① 上司の適切な対応によるものとはいえ傷害の結果は発生しなかったこと
  • ② 従業員の行為が自傷行為の目的に出たものであり他の職員に向けられたものではなかったこと
  • ③ 真摯な姿勢で業務に従事していた時期があること
  • ④ 従業員に種々の問題行動はあったが懲戒処分歴はなかったこと

等を考慮し、1度目の懲戒処分で従業員を直ちに諭旨解雇とすることはやや重きに失するとして、諭旨解雇・懲戒解雇を無効と判断しました。

(2) 普通解雇の有効性について

他方で、裁判所は、

  • ① 従業員が、入社後配属された複数の部署においてトラブルを起こし、最終的に職場でカッターの刃を持ち出すなどの事件を起こしたことから、会社が職場秩序を著しく乱した従業員をもはや職場に配置しておくことはできないと考えるのは当然である
  • ② トラブルを起こす従業員にその都度注意・指導を繰り返し、いくつかの部署に配置転換して幾度も再起を期させてきたことから会社がもはや改善の余地がないと考えるのも無理からぬもの

として、普通解雇を有効と判断しました。

3. 懲戒解雇に関する裁判所の考え方

多くの企業では、勤務態度が不良な従業員や問題行動を起こす従業員に対して、口頭や書面等での注意・指導、配置転換、各種懲戒処分等を行い、それでもなお改善がない場合に解雇処分を決断されているかと存じます。このような従業員に対して、事前に、注意・指導をどの程度続け、どこまでの懲戒処分を経る必要があるのかということは、企業において非常に悩ましい問題となります。

本判決の事案では、上司による注意・指導が繰り返し行われ、配置転換も行われていたにもかかわらず、懲戒解雇の対象となる行為の結果や動機を考慮し、懲戒処分歴がなかったこと等から、諭旨解雇・懲戒解雇が無効と判断されました。

本判決は、従業員をやむを得ず解雇する場合において、懲戒解雇とするか普通解雇に留めるのかを検討する際に参考になりますので、ご紹介させていただきます。

なお、弊所から過去に発信させていただきましたニュースレターは「TOPICS一覧」からご確認いただけます。

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