弁護士 中村裕介
さて、先月に引き続き今月も、皆様に残業代請求のリスクを適正に把握していただくため、労働時間や休憩、休日に関する規制の適用が除外される「管理監督者」(労働基準法41条2号)に関する重要判例について情報配信をさせていただいております。今回は、管理監督者該当性を認めた近時の裁判例をご紹介させていただきます。
1. 日本マクドナルド事件判決以降の裁判所の判断
先月ご紹介させていただいたとおり、管理監督者該当性は、
- ① 経営者と一体的な立場で仕事をしているか否か(判断要素①)
- ② 出社退社や勤務時間について厳格な規制を受けていないかどうか(判断要素②)
- ③ その地位にふさわしい待遇がなされているか否か(判断要素③)
の3つの要素を総合的に考慮して判断されています。
これからご紹介させていただくセントラルスポーツ事件判決(京都地判平成24年4月17日)は、管理監督者該当性が否定され使用者に厳しい判断がなされる裁判例が多い中で管理監督者該当性が肯定された貴重な裁判例といえます。
2. セントラルスポーツ事件判決の概要
セントラルスポーツ事件判決では、スポーツクラブ運営会社において、各エリアの長であるエリアディレクターを務めていた元従業員(原告)から、未払いの時間外手当等の請求がなされ、原告の管理監督者該当性が争われました。
同判決では、
- 判断要素①に関して、 原告は、その職制上の地位(アルバイトを除く従業員の中では上位約4.1%、アルバイトを含めた全体では上位約0.9%の地位)、及びエリアを統括する上での人事権、人事考課、労務管理、予算管理など必要な権限を実際に有しており、エリアを統括する地位にあったことが認められること、並びに、労務管理、人事、人事考課等の機密事項に一定程度接しており、また、予算を含めこれらの事項について一定の裁量を有していること
- 判断要素②に関して、原告が遅刻、早退、欠勤によって賃金が控除されたことはなく、また、業務時間内に自由に接骨院でマッサージを受けていたこと
- 判断要素③に関して、エリアディレクターの年俸月額が、従業員の最上位の職である副店長が月100時間の法定外残業を行った場合の月額賃金と大差がなく、エリアディレクターは管理監督者に対する待遇として十分な待遇を受けていること
3.セントラルスポーツ事件判決を踏まえ使用者が留意すべきポイント
判断要素①に関し、日本マクドナルド事件判決を含む近年の裁判例では、使用者側において労働者が企業全体の経営に関与していたことを立証しなければならないとされていたのに対し、セントラルスポーツ事件判決は、企業全体の経営への関与を必ずしも求めなかった点に特徴があります。裁判例上の決着がついていない以上、使用者としては、管理監督者の設定にあたって、取締役等のように企業全体の経営に関与していなくとも、一定の部門全体の統括的な立場にある者であれば、その権限の具体的内容等によっては判断要素①が認められ得るという点を理解しておく必要があるといえます。
また、セントラルスポーツ事件判決では、上記のとおり、遅刻、早退、欠勤による控除の実績がないことや業務時間の柔軟な調整を行っていたこと等を認定することによって判断要素②を認めています。使用者としては、この点を踏まえ、管理監督者に設定した者については、遅刻、早退、欠勤による控除をしないことに留意するとともに、時間の使い方等については厳格に規制するのではなく、ある程度裁量を付与していくことが求められます。
さらに、セントラルスポーツ事件判決では、管理監督者に設定した者の賃金と従業員の最上位の職にある者の賃金とを比較する手法によって判断要素③を認めています。近年の裁判例では、このように、下位の職種との比較により判断要素③の検討材料とする事例が多いといえます。使用者としては、この点を踏まえ、管理監督者の設定にあたっては、下位の職種の残業代含む給与水準と比較し、待遇面において時間外手当が支給されないことが十分に補われているかどうかを検討すべきであると思料いたします。