弁護士 羽場知世
働き方改革関連法に関する第4回目の情報配信をさせていただきます。今回のトピックは長時間労働者への対応です。
労働安全衛生法では、労働者の脳・心臓疾患の発症を予防するため、事業者は、長時間にわたる労働により疲労の蓄積した労働者に対し、医師による面接指導を実施しなければならないとされています。この義務は、事業規模に関係なく、全ての事業者が負います。
今回の働き方改革では、医師による面接指導を実施しなければならない労働者の範囲の拡大等がなされました。また、長時間労働の有無を確認するため、労働時間の状況の把握方法が具体的に定められました。
改正の概要
1. 医師による面接指導の対象者の拡大等
(1) 通常の労働者
対象となる労働者の要件のうち労働時間数について、これまでは時間外・休日労働時間が1月あたり100時間とされていましたが、改正により、1月あたり80時間に短縮されました。
なお、通常の労働者については、本人からの申出がある場合に限り面接指導を実施すれば足ります。また、違反による罰則は現在のところありません。
(2) 研究開発業務従事者
労働者のうち新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務に従事する者については、時間外・休日労働時間が1月あたり100時間を超える場合には、当該労働者からの申出がなくても医師による面接指導を実施しなければならなくなりました。違反した場合には罰則があります。
2. 労働時間の状況の把握義務
(1) 客観的な方法による把握
これまで、労働時間の把握方法については、具体的な法令上の規定はありませんでした。しかし、今回の改正により、事業者は、上記の面接指導を実施するため、原則として、タイムカード、パソコン等の使用時間の記録、事業者の現認等の客観的な方法により労働者の労働時間の状況を把握することが義務付けられました。
なお、労働時間の状況を把握すべき労働者には、管理監督者や裁量労働制の適用者も含まれます。
(2) 自己申告により労働時間を把握する場合
やむを得ず客観的な方法により把握しがたい場合に自己申告により労働時間の状況を把握する場合には、労働者に対して適正に申告を行うよう十分な説明を行うこと、自己申告による労働時間の状況が実際と一致しているかどうかについて必要に応じて実態調査を実施すること等が必要となります。
3. 労働者への労働時間に関する情報の通知
事業者は、時間外・休日労働時間が1月あたり80時間を超えた労働者本人に対して、その算定後、速やかに当該超えた時間数を通知することが義務付けられました。
施行日
ただし、1.(2)については、中小企業以外は2019年3月31日までに締結した36協定の有効期間中は適用が猶予、中小企業は2020年3月31日までに締結した36協定の有効期間中は適用が猶予されます。
実務上の留意点
長時間労働者に対する面接指導の規制が強化され、面接指導実施のための労働時間管理及び労働者への労働時間の通知についても、規制が整備されました。特に労働時間の状況の把握義務に関しては、全事業者に対し、原則として客観的な方法による把握が義務付けられましたので、自己申告制をとられている企業様におかれましては、労働時間把握方法の見直しをいただく必要がありますのでご留意ください。
改正の詳細については、以下のリーフレット等をご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/000497962.pdf
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000372681.pdf